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店長日記

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2017'10.21.Sat
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2013'05.06.Mon
もうカテゴリー分けようかな……という勢い。
背景はみんなの想像力で出来ているよ!(投げた)

「お、今日は煮付けか」
「放置すればするほど良いって、ステキ」

三人で広い食堂を囲む。
今日の夕飯は作り置きをしていた煮物三昧。
だって、この時期はお客さんって、ほとんど居ないんだもの。
私たちは箸を使い慣れているけど、彼も器用に箸を使うことに驚いた。
しかも、右手で。左手で帳簿に書いたのに、食事は右手でしている。

「おい、ユウリィの飯が不味いのか?」
「美味しいです」
「じゃあ美味いって言いながら食え」
「すいませんでした」

かかかっ、と兄がご飯を勢いよく掻き込む。
空になった茶碗を渡されたので、山盛りにして返した。

「ご兄妹ですか」
「おう。俺がアクアだ」
「アクアさん、あの、すいませんが」
「一つの質問に対して、こっちの質問一つな」
「……それは答えられません」
「そうやって隠そうとするから、こっちだって聞きたくなるだろうが」

煮魚と煮物とを、交互に箸でつつきながら兄が悪態をつく。
出したものがほとんど空になる頃合いを見て、席を立つとお茶の用意をした。

「働き者の妹さんですね」
「まぁな。俺も親父も、ほとんど海に出てるから、こっちは任せっぱなしだ」
「そういえば、今回は短かったね。お魚もあんまり無かったよ」

兄の前にコーヒーを置くと、彼がぽりぽりと後ろ頭を掻いた。
「そうなんだよ」と小声で呟くと、不思議そうに首を傾げる。

「こんなつもりじゃなかったんだけどな……シュラクを拾ったら、なんか、帰らなきゃって思って」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「申し訳ないついでに、どこから来たんだ」
「お答えできません」
「ユウリィ、紙とペン持ってこい。紙なら書くかもしれん」
「もう書きませんよ」

涼しい顔で彼がお茶に口を付ける。
一応、兄が言うので紙とペンを用意してみたが、彼は笑いながら首を左右に振った。
そして、カップを下に置くとふと考えたように噤む。
テーブルの上を片付け、残りの洗い物を済ませようとキッチンへ向かう。
すると、突然「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」という兄の絶叫が響いた。

「どうしたの?」
「ユウゥゥゥリィィィィィ、俺ハズレ引いたーーーーー」
「本当に、申し訳ありません……」
「シュラクのヤツ、無一文なんだけど!!!」
「えぇ~~~……オフシーズンの臨時収入だと思ったのに~~~」
「一宿一飯の恩です、お手伝いさせて下さい」
「あの恰好で金なしなんて、詐欺だろーーー」
「確かに……あの服、売れないかなぁ」
「やめて下さい、お手伝いさせて下さい」

しくしくと、床に両ひざをついて嘆く兄。
風呂場に視線を移し、本気で服が売れないだろうかと考える私を見て、彼も同じように床へ膝をついた。
仕方がない。
タダで寝泊まりをさせるほど、ウチは安くないのだ。

「じゃあ、洗い物と明日の下ごしらえ。お願いしようかな」
「ありがとうございます。精一杯頑張ります」
「……ところで、お魚は三枚にさばけますか」
「やってみます。ところで、この一匹を三枚にするとは、どういう意味でしょうか」
「兄さぁーーーん、この人使えなぁーーーーーい!!!」
「ほ、本当に申し訳ありません……!」

どんなに深々と頭を下げようが、出来ないものは出来ない!
兄は「頑張れー、好きに使えー」と知らんぷりだ。キッチンを覗きに来ようとしない。
腰に手を当て、ぷうと両頬を膨らませる。
どうやら見た目通りの貴族の出身なのかもしれない。

「と、とりあえず……洗い物くらいは、お願いしてもいいですか」
「はい」
「お皿一枚破損につき、罰金ですよ」
「善処します……あ」

つるん、と手から滑り落ちる皿。
ぱりん、と割れる音。
私はがっくりと肩を落とし、彼は申し訳なさそうに泡だらけの両手を見た。

「も、もう……部屋、行って休んで下さい」
「そういう訳にはいきません。一宿一飯の恩を返さなければ」
「あなたが動くと邪魔になるの! 仕事増やすなら出てってよ!」

苛立ちを隠すことなく、きっと彼を睨みつける。
すると、彼は困ったように眉を下げた。そんな顔されたって、何も出来ないのでは何もしてもらえない。
シンクから彼を遠ざけると、とりあえず割れた皿を拾って避けて置いた。
無言で残りの洗い物を続ける。彼も出て行く様子はない。
私は折れたと言わんばかりに溜息を突くと、口を開いた。

「おはなし」
「はい?」
「何か、面白い話して」
「……と、言いますと」
「一人でキッチンに居るとヒマなの。面白い話してくれたら、宿泊費はチャラでいいです」
「難しい問題ですね……これは、いかがですか」
「なんでしょう」

とんとんとん、と彼が足を鳴らす。
次の瞬間、キッチンには流れる水以外の音が混ざりだした。
否、これは、歌だ。
彼の口から朗々と、聞いたことのない歌が紡がれる。
ほんの一節だけ歌うと、「どうでしょうか」と感想を求められた。
流れる水の音がうるさい。蛇口を閉めると、両手を叩いた。

「凄い、上手だ」
「本物は、もっと上手なんですよ」
「聞いたことのない歌だった。誰が歌ってるの?」
「ずっと昔の人です」
「ねぇ、もっと聞かせてくれる?」
「いいですよ」

彼が笑顔で頷く。
聞いたことのない言葉。私の知らない、旧言語だ。
でも、とても心地が良い。
思わず笑顔になりながら、私は彼の邪魔にならない程度の水音を出して洗い物の続きをした。
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